ナンパしてきた人を本気で好きになってしまった話

哲学
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はじめまして、こんにちは。のんちゃんこと野里和花(@robotenglish)です。

 

先日、プロブロガー・みやもさんのブログ記事を読んで、ふと、過去の恋愛が懐かしく思えて、昔好きだった人のツイッターアカウントをひさしぶりにチェックしました。彼は昨日、28歳の誕生日を迎えていました。

 

出会ったときは、彼は25歳でした。わたしは、19歳。
出会いは、わたしが彼にナンパされたことから。

 

「年上の男性って格好良く見えるもの」でも、それ以上な気がした。

 

大学2年生。
大学生活にもすっかり慣れて、友達とも良い関係を築き、サークルでは後輩もできて、毎日たくさんの人に囲まれて楽しい日々。のはずなのに、わたしは浮かない顔をしていた。思い描いていた大学生活に自分がいなかったからだ。

 

当時、わたしはみっともなく失恋をひきずっていた。
恋の痛手は確かに辛かったけれど、大学生活では毎日色んな人に出会うし、わたしが生まれた地方と違ってここには格好良くお洒落な人が多いし、なによりわたしは惚れっぽい体質なのですぐに新しい恋に落ちて、たまにいざこざや嫉妬で疲れながらも、ときめくようなキャンパスライフを送るのだと。

 

しかし。

 

いくら大学に慣れても、仲の良い友達ができても、後輩がはいり人間関係が広がっても、いっこうに胸の高鳴りが訪れない。

 

なんで。

 

今思えば、馬鹿だったと笑えるけれど、そのときは本気で「このまま一生彼氏ができないままでいるんだ…」と悩み、自暴自棄になっていた。そんな大学2年生の夏休み、恋もしないわたしはバイトに明け暮れ、そして、彼に出会った。
25歳。わたしより3つ年上の彼は、大人に見えて、でも、でもそれ以上にわたしにぴったりな気がして。

 

ナンパをしてきたのは彼、でも好きになったのはわたしだけ。

 

大学生の夏休みなんだから、海にキャンプにBBQに恋に火遊び…となっていてもいいのに、わたしはバイト、バイト、バイトの毎日。
その日も朝から夜の7時頃まで働き、イヤホンでだいすきなチャットモンチーを聞きながら、くたくたになって街を歩いていた。

 

「明日は久しぶりの休みだし、なにをしようかな」と思っていたところ、さっと人影が近づいてきた。あまりに距離がつめられるので、声をかけられていると思い顔あげると、案の定お兄さんがわたしにむかってなにやら口を動かしている。

 

頼みごとをされたら断れない性格、それが滲み出ているのか、街中でよく人に道を聞かれる。単に困っている人なら、と思ってイヤホンを耳から離した。

 

「いまなにしてるの?」……なんだ、ナンパか。

 

「バイトから帰っているところです」
「そうなんだ。ご飯食べた?どっか行かない?」

 

一度は止まりかけた足を、再び先へ進めたわたしに、彼も同じ速度でついてくる。適当に曖昧な返事をしながら、それでも「うん」という気はなかった。だけど、

 

「俺、東京からこっちに来たばっかりで友達いないんだよね」

 

はた、とわたしの足が止まった。そしてまじまじと、隣に立つ彼を見た。

 

ゆるい線を描く髪、黒いスキニーパンツ、なにかのキャラクターがワンポイントに描かれたシャツ、身軽さを表すかのようなうすいトートバック、黒ぶち眼鏡のふちにちょこんと居座っている細長いやつは、浅野いにおのあの漫画の、

 

「ご飯ならいいですよ」

 

自分がさびしいひとに弱いのは、昔から知っていた。うれしそうに笑って、「じゃあどこかお店を探そう」と踵を返した彼のちょっと下がり気味の肩のラインに視線を滑らせながら、「まあ、明日の予定はないんだし、いいか」と軽い気持ちでその背中を追った。

 

東京からきたばかり、という彼は、本当にこの街のことをまだ分かっていないようで、わたしたちは行くあてもないまましばらく歩きまわった。細い路地の先にあった、ぽわんとした照明がともるカフェレストランに行きつくまでに、お互いのあたりさわりない部分を教え合った。

 

わたしは「大学生で、文系で、鹿児島の出身で、19歳」だということを彼に伝えて、彼は「会社員で、茨城の出身で、東京の理系の大学を2年前に卒業し、25歳」だと言った。

 

店内では、壁に「E.T.」が投影されていた。落ち着きのある内装で、壁際のソファ席にはカラフルで見るからにふかふかなクッションがたくさん置いてあった。テーブルひとつひとつにちょこんと置かれているキャンドル。いかにも女性ウケしそうなお店で、お客のなかで男性は彼だけだった。

 

お洒落な店内で、お洒落なメニュー表を眺めて、隣のテーブルでお酒をかたむけている女性3人組をちらりと見ると、なんだか変なところに来てしまったな、という気が湧く。

 

バイト終わり、帰るだけだからと化粧直しもしていない。どうせバイト先で制服に着替えるからと、てろんとした淡いピンクのワンピースを単純に選んだ自分を恨めしく思った。ひどくこどもに思えた。

 

「なんでこの人はわたしに声をかけたんだろう」と聞きたい気持ちにかられたけれど、注文した飲み物がテーブルに届いたので、乾杯の「かちん」という音と一緒に、オレンジジュースで喉の奥へ押し込んだ。

 

ビールをどんどん飲んで、どんどん注文する彼は、饒舌で、でも話を聞くのもうまく、わたしたちは3時間近く、最後のお客になるまでしゃべりつづけた。たのしかった。初対面の人でも物怖じしない性格なのはもともとだけど、知らない部分をめくるように交わされる会話じゃなくて、はじけるように自分がしゃべりたいことをしゃべり、聞きたいことを聞き、よく食べてよく飲んで、よく笑った。

 

彼が大学時代に組んでいたバンドや、研究室のメンバー、彼のお母さんや、お母さんが最近飼いだしたハムスター。会ったこともないし、これから会うことだってないはずの人たちの話なのに、どうしてかとても親しみをもって耳をかたむけられた、かつて同じ学校だった人の話を聞くような気分で。

 

彼がたばこを吸いに席を立っている間、さっきまでくるくるまわってテンポよく言葉を産んでいたのがうそみたいに、空気に酔ってぼやける頭をクッションに預けて、E.T.がこどもたちと自転車で空に飛び上がるシーンをみつめた。わたしたちはずっとここにいて、もうなんびゃっかいもこのシーンが繰り返されているように思えた。なんだかそれは愉快だった。

 

彼が戻ってきて、椅子に座るためにすこし前のめりになると、ふわっと苦いかおりがした。「自毛ですか?」それ、と彼の頭を指さす。ぎゅって握ったら、見た目通りふわふわなのかなと考えた。

 

恋をしている自分がすきだった。

 

翌日、わたしは高校時代の友人と、博多駅のそばでランチを食べていた。
学校がどんなふうかを話し、バイト先の愚痴をこぼし、「実は昨日ね、」という報告もたっぷりした。

 

友人と別れて、そのまま博多駅と併設されるショッピングセンターで、目的もなくふらふらお店を見て回った。「またその人から連絡あったら教えてよ」という友人の言葉が妙に気になって、昨日(正確に言えば、今日の朝)、新しくLINEのともだちに加わった人とのトーク画面を、メッセージを送るわけでもないのに、何度も何度も確認した。

 

昨晩のご飯の後、カラオケに行って、始発までスタバで話をつづけて時間を過ごし、連絡先を交換して別れた。すぐに電車に乗ったであろう彼から「ありがとう」と「また会おう」というメッセージが届いていて、わたしはというと、帰ってシャワーを浴びて友人とのランチのために急いで準備をしたので余裕がなく、スタンプひとつ返しただけだった。

 

「なんかもっと気のきいたことを返せばよかったかな…」と後悔を感じて、ふと、疑問に思う。わたし、きょう一日ずっと彼のこと考えてない?

 

もうそれを思った瞬間にだめだった。だめ、っていうのは、既成事実になってしまった、という感覚。

 

ナンパしてきた人を好きになるなんて、もう誰も好きになれないとか思ってたくせに一晩で簡単に恋に落ちちゃうなんて、自暴自棄になってたのはなんだったんだ、となんだか情けない気分になりながらも、足は化粧品売り場に向かっていて、明らかに浮足立っている自分の単純さがすきだった。

 

会えなかった悲しさも、顔を見たら忘れてしまう。

 

2回目に会ったのは、それから1週間後。

 

ご飯を食べて、お店をでたら雨が降っていたので、わたしが持っていた傘にふたりではいった。前回と同じようにそのままカラオケに行った。彼はバンドをしていたとき、ボーカルではなかったけれど、歌はうまかった。「ウルフルズのバンザイがすき」と言うと、それを歌ってくれて、ずるいな、と言いたいのをおさえて「やっぱりいい曲ですね」って笑う。終電が行ってしまった時間にカラオケ店をでたので、歩いて帰った。雨はあがっていた。

 

彼の家のそばの公園は、福岡で有名なデートスポットで、湖を囲む巨大なつくりになっており、夏祭りがあると何万人という人で賑わう。平日でも家族連れやランニングをする人で溢れている。しかし、そこも12時を過ぎればひっそりとしていて、しっとりぬれた地面をゆっくり踏みしめながら散歩をした。

 

3回目がくるまでに、3週間は時間があいてしまった。彼は仕事や社員旅行で忙しそうで、予定がなかなか合わなかった。

 

彼から、「神戸のお土産買ってきたよ」と連絡をもらい、それにつられ(たふりをし)て、公園まで自転車を走らせた。3週間なんて大した時間じゃないのに、顔を見たら、「ああ、そうだこんな顔だった」と忘れていたつもりなんてなかったのに抜けていた部分が綺麗に埋まるような気がした。

 

どんな社員旅行だったのか聞きながら散歩をして、彼が住むマンションの前まで行った。「ここ」と言われた、オートロックつきの綺麗なマンションを見上げて、わたしは黙った。自分がなんて言うべきかわからず、彼になんて言って欲しいかも分からず、逃げるように「じゃあ、また連絡しますね」と言って自転車にまたがりその場を去った。

 

その次のときも、待ち合わせは彼の家のそばの公園だった。

 

最初に約束していた時間より2時間も遅れてやってきたのに、わたしは寒い公園でずっと待っていたのに、怒るよりも会えたことの嬉しさが勝ってしまうのが、悔しい。ネクタイにくしゃっと皺がよって、「先輩に付き合わされて」と言い訳をする彼の身体からは、たばことお酒のにおいがした。「ご飯行けなくてごめんね」には大丈夫ですよってすぐに返せたのに、「もうどこもお店閉まってるし、うちに来る?」には、言葉がつまった。

 

2時間も待ってやっと会えたんだからもっと一緒にいたい、という乙女心と、彼はナンパする人だから、という警戒心とがまぜこぜになり、それを抱えたままどちらも捨てることができず、彼の部屋にあがりこんでいた。

 

東京からこっちに来たばかりで、という言葉のとおり、彼の部屋はまだ片付けられていなくて、ローテーブルの代わりが段ボールだった。部屋の隅には漫画と、テレビ台の下には乱雑にCDが置かれてた。わたしの部屋とは大違いだな、と思った。彼がひきっぱなしの布団に腰を下ろしたけれど、わたしはなんだか落ち着かず、壁に背中を預けるようにしてお尻をついた。ぴかぴかのフローリングが、つめたく足にすいつく。

 

彼が大学時代につくったCDを聞いて、漫画をぱらぱらとめくり、気が向いたことを話して、時間がゆっくりと過ぎた。この先、どうなるのか、彼はどうしたいのかを考えると、なにもはっきりしたことは思い浮かばないし、いま会っていてもつぎに会えるのがいつなのかも不安に思うような状態に、じわじわと苦しめられそうになる。

 

でもそんなの言えるわけがなかった。ビールの缶の口を指先でなぞる彼の瞼は、重そう。「眠たいですか?」って聞くのも、なんだか喉の奥につっかえて、わたしはただ漫画に夢中になっているふりをした。

 

20歳になった日に、彼とさよならしようと決めた。

 

「わたしは学生だけど、彼は仕事があるから仕方ない」と思いながら、あっという間に4カ月が過ぎた。季節はすっかり冬になって、自転車に乗ると頬がぴんとはって冷たさが痛みに変わる。公園での待ち合わせも、文句を言いたくなる。

 

でも、馬鹿みたいにわたしはそこへ行った。4時間待って、それでも会えない日もあった。そばにある交番から、お巡りさんが不審そうに見てきたら、ひとりで散歩をしてまた同じ場所に帰ってきた。寒くて、指先は固まり、スマホ画面を滑らせるのも困難になっても、電話をすることも家の前まで行くこともしなかった。それをしたら終わりな気がした。

 

もう、わたしばっかり好きで、彼は誰かと一緒にいたいときに来てくれる便利な存在としかわたしを見ていないというのは、とっくに分かっていても、だからって素直にそれに応じることはできなくて、公園の木のざわめきひとつで簡単に切なさの底に落ちてしまうような自分を抱きながら、じっと、じっと、公園のベンチに座っていた。

 

20歳の誕生日の夜に、思いがけず彼から連絡がきた。

 

友人が開いてくれたお誕生日会から帰宅し、スマホをチェックして、「いま会えない?」の文字を見た瞬間、返事をするより先に脱ぎ捨てたコートにまた袖を通していた。わたしの家から、いつもの公園まで自転車で40分、頑張れば、30分。寒さで耳がとんがるように思えた。お誕生日会で食べきれずに、友人が持たせてくれたケーキを自転車のカゴにいれて、今日がおわる前に彼に間に合えと、ペダルを踏む、踏む、踏む。

 

前来たときと寸分も変わらないマンションに自転車を停めて連絡すると、彼がすぐに降りてきた。

 

なんだか「今日実は誕生日だったんです…」と自己申告するのは気が引けたけれど、ケーキの理由が思い浮かばずに、素直に打ち明けると、「じゃあお祝いに」とコンビニでお酒を買いに行く流れになった。「なにがいい?」と聞かれても、分からないから、「お任せします」というと、つぎつぎカゴにはいっていくワインやビールやおつまみたち。

 

コンビニという日常空間に、カゴを片手でもってお菓子の棚を行ったり来たりする彼の横にいれるのがとびきりの誕生日プレゼントだと思った。だから、ケーキもいる?という問いには、もう充分です、と答えた。

 

部屋に戻って、ワインをあけて乾杯した。段ボールにのったふたつのワイングラス、半分以上食べられたケーキ、前と違って自然に布団にお尻をのせて彼のすぐ隣に座るわたしの、なんともちぐはぐな感じも、くすぐったくて、今日、彼が連絡をしてきてくれてよかったってこころから思った。

 

彼が20歳になったときのこと、お父さんと初めてふたりでお酒を飲んだときのことを聞いた。「20歳になったけど、全然、大人になった感じはしないんです、ビールは美味しいと思えないし」と言うわたしに、「そんなもんだよ、いつかわかるよ」と返す彼。

 

いつか分かるのかな、彼に会うたびに積もるもやもやも、明らかになる日が来るのかな、この、お互い大事なことに蓋をしているような関係も、クリアになる日がくるのかな。

 

気づいたら、わたしの誕生日はとっくに終わっていた。

 

せっかく友人がプレゼントしてくれたケーキは、全部食べられずに、いくつかの山を残したまま、暖房の風にあてられて乾いてしまった。熱かった。ワインはまだグラスにぶどう色した溜まりをつくっているけど、もうわたしの気持ちはいっぱいだった。

 

水が欲しいと思いながら、それを言えずになぜか彼の横に寝そべっていた。熱くてたまらない。なんで布団にはいることになったのかもよく思い出せなかったけど、そこから出る術も分からずに、いままでで一番近い距離で彼のまつ毛を見ていた。

 

彼のゆるゆると波を描く髪を、いまならなでたりすくったりできる。でもどうしてかそれをしたいとは思わない。ただ、わたしはできればそのまま眠ってしまいたかった。熱い身体のまま、暖房の効いた部屋で布団にくるまり、隣には彼がいて、そのまま眠りにつければそれがよかった。彼が身体を横にたてて、わたしに半分覆いかぶさるような形になっても、思ったより柔らかくはなかった髪が、わたしのまっかになったほっぺたを滑っても、ただわたしは眠れればいいのにと馬鹿な願望をもち、わたしを覗きこもうをする瞳を透かして、がらんとした天井をじっと見据えた。

 

身体は思うように動かなかっただけではなく、「わたしのこと、すきですか」という4ヶ月間喉に刺さったままどこへもいってくれない言葉も、とうとう口にできなかった。

 

もう充分です、って言えないけど、思っていた。

 

4枚の便せんに思いをぶつけて、それでも帰りの自転車に乗ったら涙が出た。

 

それから2日後、わたしは4枚にも及ぶラブレターと借りていた漫画を携えて、いままでと同じように公園に向かって自転車をこいでいた。心臓がバクバクしていたのは、自転車を必死でこいだからだけじゃないことを知っている。

 

公園に到着して、初めて自分から電話をかけた。「会えるかもしれない」というのは、その日の昼に彼から聞いていたけれど、実際のところはよく分からなかった。電話に彼がでなくて、安堵している自分もいた。そのまましばらく、いつもと同じ場所に座って彼を待った。

 

わたしは手紙を書くのがすきだ。
すきなひとができると、すぐにラブレターを渡したくなる。けれど、その歴代のラブレターたちは、書き手が臆病なばっかりに、誰の目に触れることなく机のひきだしの奥に眠りつづけることとなった。

 

でも、今回のだけはそうさせない、と決めてここまで来た。
これを渡さなくても、気持ちだけは言うつもりだったし、そうできるのならそれがよかった。

 

1時間近く待っても彼からの連絡はなかったので、自転車をゆっくり押してマンションの前へ行った。3階の、左から2番目。カーテンから光が漏れていた。でも、彼は電話にはでてくれない。

 

わたしはマンションのロビーに漫画をいれた紙袋を置いた。もちろん、そのなかにラブレターもいれて。「借りていた漫画、返しておきますね」とだけメッセージを送って、連絡先を消すと、自転車に乗って、夜の公園を通り抜けて家に帰った。イヤホンから、andymoriが軽快な演奏にのせて悲しみを歌うのが聞こえる。ラブレターには、いまもってる気持ちを全部まるっと移したつもりだったのに、それでも涙はでて、信号機の赤が夜の黒に溶けた。

 

1カ月後、わたしの決断は正しかったんだと知る。

 

自分の精一杯の勇気を出して彼にさよならをしたけれど、前の失恋をひきずったように、やっぱりどうしても未練は残ってしまう。わたしは彼が大学時代に組んでいたバンド名から彼のツイッターアカウントをみつけて、たまにチェックしていた。元気でやっていると知ることが、慰めになった。

 

でもある日、気になるリプライを発見した。おそらく彼の先輩からで、「お前たちももう長いよな」と、彼と、誰か他の人にむけてつぶやかれていた。詳しく探らなくても、それが彼女だってすぐに分かった。東京の大学を出て、就職して、福岡に転勤になり、だけど、彼女との関係は変わらずつづいていたのだ。

 

彼への怒りとか、自分への悲しみよりも、不思議と、その会ったこともない彼女を想うと、最近ではおさまっていた涙がとめどなく溢れた。

 

彼女はどんな気持ちで、遠い地に行った彼氏との関係を保っているんだろう。きっと会えないさびしさを感じる日も多いはず。彼が、本当はどんな生活をしてどんな交友関係をもっているのか、わたしには分からずじまいだった。でも恐らく、さびしいときは誰かに声をかけて、いろんな関係を残して知らない土地にきてしまった人の顔をして、女の子と過ごしているんだと思う。そして、きっと、彼女はそれを知らずに、ひさしぶりに会える日を心待ちにしている。

 

こういうものなのかな、彼が言った「いつかわかるよ」は、こういうことなのかな。

 

昨日、彼は28歳の誕生日をむかえた。

 

先日、ツイッターでフォローしているブロガーさんの記事を読んだ。「昔、好きだった女の子が結婚してしまった話」という記事。それを読んで、ひさしぶりに彼のツイッターをチェックした。相変わらず、すきな音楽のことや、会社の愚痴をこぼしていた。そして、偶然、それを見た日が彼の28歳の誕生日だった。

 

3年も経った、というのにも驚き、「会いたいな」と思う自分にも変な感じがする。でも、なんだかいまなら、笑って話ができる気がするし、あのとき付き合ってた彼女とどうなんですか、とも気軽に聞けるはず(ちらっと見ただけなので、いまも彼女と仲良くやっているのかは分からなかった)。

 

福岡で転勤生活を送っていた彼だったけれど、いまは東京の本社に戻っているようだった。いつかばったり会うことがあってもおかしくない。28歳の彼と、23歳のわたしと、いい友達になれるなら愉快だなと思って、これをいま書いている。

 

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